「イス倒していいですか?」
新幹線の中とかでは「シートを倒す時は後ろのお客様にご配慮の上〜」のようなアナウンスも流れますし、後ろの席の人に最も配慮した言い回しがこのスタイルだと思います。
しかし、これって相手(後ろの席の人)に「YES」か「NO」を言わせる最低なスタイルでもあります。って言うか、返事するのちょっと面倒じゃありませんか?
ぶっちゃけ、新幹線や夜行バスに乗るたびに「倒していいですか?」って聞かれる圧と、「倒していいですか?」って聞かなければいけない圧を感じて憂鬱になるんです。
いっそのこと、イスのデフォルトを全力で倒した状態にしておいて、好き勝手イスを起こせばいいんじゃないか?って思うくらいです。
イスを倒すことができるのは、乗車した全員に与えられた当たり前の権利なんですが、ここは日本、やっぱり気遣いとおもてなしの精神が大切ですから「一声かける」みたいな配慮は必須です。
と言うわけで、ここからは「イス倒していいですか?」に変わる、イスを倒されても相手が嫌な気分にならない方法を模索していきましょう。
問答無用スタイルです。
しかしこれによって、後ろの席の人がこぼれやすい飲み物とかをテーブルにおいていたりしても「あ、席倒すのね」と理解できますから、無言で倒すよりも圧倒的な配慮を感じます。
しかも、「イス倒していいですか?」と違って「はい」や「いいえ」で返事する必要もありません。無言で買い物ができるコンビニが流行するこの日本、やっぱり興味のない人とのコミュニケーションは避けたいですよね。
でも、後ろの席にすげー怖そうな人が座ってたら、いきなり「イス倒しま〜す」 って言えなくないですか?喧嘩とかになったら嫌じゃないですか・・・。
なんか今思ったんですけど、イスを倒すときの声かけって後ろの人に配慮しているってよりは、余計な揉め事にならないように自分の身を守ってるって感じの方が正解なんじゃないですか?
相手に選択を委ねる質問よりも、同意を求める質問の方が「はい」と答えやすい性質を利用し「イスを倒してもいいですよね?」と聞いてみましょう。できればレイバンのサングラスをかけると良さそうです。
「いいとも〜」
と、返事してくれる可能性すらあります。
ちなみに、この「はい」か「いいえ」で答える事ができるスタイルの質問を「クローズドクエスチョン」と言うのですが、こういった質問で相手に「はい」を答えさせ続けて、重要な質問をすると「はい」と答えやすいと言う交渉術を「YESの法則」と言います。
このテクニックも、イスを倒す交渉の際に活用できますね。
「二者択一のマインド」や「ダブル・バインド」と言われるこのテクニック。
通常の「イスを倒していいですか?」と言う質問の場合、相手には「許可」と「却下」の二つの選択肢が生まれます。この二つの選択肢を選ぶと言う状態を二者択一のマインドと呼ぶわけですが、このマインドセットを変化させる事で交渉を優位に進める事ができます。
例えば、「イスをゆっくり倒す方が良いか?それとも素早く倒す方が良いか?」と後ろの席の人に聞く事で、「許可・却下」ではなく「ゆっくり・素早く」と言う二者択一のマインドに、マインドセットが変化します。
これによって「却下」と言う選択肢を無くすわけです。
なかなかイスを倒せさせてくれなさそうなオーラを纏っている人が後ろの席に座っている場合、いきなり「イスを倒してもいいですか?」と交渉するのではなく、本題に移る前に段階を踏むのが得策です。
この方法は「セールスマンがドアの隙間に足を入れることができれば勝ち」と言う意味から「フット・イン・ザ・ドア 」と呼ばれるテクニックであり、1度要求を飲んでしまうと次の要求が断りにくくなるという人間の心理学を利用したものです。
例えばキャバクラ。
「隣いいですか?」→「名刺受け取ってもらってもいいですか?」→「ライン交換してもらえませんか?」→「一杯お酒をいただけませんか?」→「指名していただけませんか?」→「外で会ってもらえませんか?」→「エルメスのバーキン買ってもらえませんか?」
という具合です。
こうやって欲しいものを手に入れるのです。なので、イスを倒したい場合はまず後ろの人に時間を尋ねたり、ライターを借りたりしてから、本題の「イスを倒しても良いかどうか」の交渉に入りましょう。
メルカリなどのフリマアプリが一般化した事で、値切りのテクニックとして使用される事が多い「ドア・イン・ザ・フェイス」。
これは「断られる前提で最初に大きな要求を仕掛け、その上で本当の目的だった小さな目的を通す」という方法です。1万円の商品を7千円で買いたいとしたら、5千円に値引きできますか?と尋ねて7千円で妥協したように見せる、みたいなものです。
相手の頼みを断るというのは「相手を譲歩させる」という事です、相手を譲歩させると人間には罪悪感が生まれるため「どこかでお願いを聞いてあげよう」という気持ちにさせ、妥協点を探り始めます。
なので、何度か擬似的な譲歩をした後に本命のお願いをすると、通りやすくなるのです。
「100万円貸してくれませんか?」と聞かれてもおそらく「それはできません」となりますが、その交渉の後で「では、イスを倒させていただくのはどうでしょう?」ときたら「それならば・・・」となるわけです。
友人、恋人、夫婦、など。二人で旅行した場合は2人1組で行う交渉テクニック「グッド・アンド・バッド・コップ」を活用することもできます。
このテクニックの最たるものが「ドラマの中の刑事と犯人」です。
犯人に白状させたい刑事Aは、机を叩いたり白熱灯を当てたりして激しく尋問します。ひとしきり犯人を怯えさせたところでトイレに席をたち、刑事Bがカツ丼を差し出しながら優しく話しかけるのです
すると、犯人は思わず白状してしまう・・・。というテクニックです。
というわけで、イス倒してもいいですか?と聞いたのに「ダメだ」と言われてしまったら、片方の人は強気に「イス倒したっていいだろコノヤロウ!」と打って出ましょう。
そして強気の交渉が難航したところで、今まで静かに動向を見守っていたもう片方の人が「まあまあ、相手の意見も聞きましょうよ」と物腰柔らかく交渉に参加します。
2人1組で行うテクニックなので、現場であたふたしないためにも、夜行バスや新幹線に乗る前にロールプレイングしておくのがおすすめです。
「商品を魅力的に魅せるのも大事だが、それ以上に客にとって貴方自身が魅力的に見えるように振る舞いなさい」という風に教わった事があります。結局のところ、「お客様は貴方から商品を買いたいのだ」というわけですね。
そこで重要となるのが「信頼を得る」という点。信頼できない相手にイスを倒されたらムカつきませんか?でも信頼できる相手なら吝かではありません。
そんな時に使えるテクニックが「ミラーリング」と呼ばれる方法です。簡単にいうと、相手の真似をする事で共通性を生み出し、信頼関係を築くという方法です。
例えば、後ろの人がキリンのビールを飲んでいれば、こちらもキリンのビールを飲みましょう。そして、相手が飲み物に口をつけたタイミングで、こちらも飲み物に口をつけます。
相手がゆっくりした口調で話すなら、こちらもゆっくり話しましょう。相手が低いトーンで話すなら、こちらも低いトーンで話すのです。
これにより、相手からの信頼を得る事がしやすくなります。こういったテクニックを使ったのちに「イスを倒してもいいですか?」と尋ねれば、嫌な顔されず「どうぞどうぞ」となるわけです。
日本人が最も踊らされやすい「バンドワゴン効果」です。
アメリカ人に対して・・・「飛び込めばヒーローになれますよ」
ロシア人に対して・・・「海にウォッカのビンが流れていますよ」
イタリア人に対して・・・「海で美女が泳いでいますよ」
フランス人に対して・・・「決して海には飛び込まないで下さい」
イギリス人に対して・・・「紳士はこういう時に海に飛び込むものです」
ドイツ人に対して・・・「規則ですので海に飛び込んでください」
中国人に対して・・・「おいしい食材(魚)が泳いでますよ」
日本人に対して・・・「みなさんはもう飛び込みましたよ」
っていうエスニックジョークがあるくらいですからね。
押しちゃダメだと言われると押したくなる。
「押すなよ!絶対押すなよ!」というテクニックを「カリギュラ効果」というわけですが、最近ではしょーもないウェブメディアとかが「閲覧注意!」とか「悪用厳禁!」とかっていう刺激的なタイトル付けをしていてヘドが出ますね。
しかしまあ、それほどまでに効果があるのは事実!
という事で、新幹線や深夜バスに乗る際は、自分の後ろの席に「絶対にイスを倒させないでください」という張り紙をしておけば、相手は思わずイスを倒させたくなるという寸法です。
限定感で動機づける方法もおすすめです。自分だけが特別なんだと思わせる事ができれば、思わずイスを倒させたくなってしまうはず。
この広い車内の中で、貴方だけに、今だけ限定でお伝えします「イスを倒します」というプレミア感。没個性的だと言われ、社会の歯車として平々凡々な日々が一転して「神に選ばれし特別な人間」である事を演出すれば、イスだって楽勝で倒せます。
僕からは以上ですが、いかがでしたでしょうか?え?「イスを倒す」じゃなくて「背もたれを倒す」だろうって?そんな神経質だとハゲますよ?
ではまた!