マルセル・デュシャンによって始まったと言っても過言ではないコンセプチュアルアートの領域。これはつまり、「無価値だと思われているものに価値を与える」という感じの芸術なのですが、ルネ・マグリッドの「イメージの裏切り」など、僕はどうしてもこの手の芸術に心を惹かれてしまいます。
ラファエル・ローゼンダールが2000年〜2010年ごろに精力的に作成した「ウェブサイト作品」達は、僕の心を掴んで離しませんでした。
そんな彼が近年、世界で初めての個展を青森県の十和田市現代美術館で行うなど再度注目されているように思ったので、ここで一度みなさんに紹介したいと思います。
ラファエル・ローゼンダール(RAFAËL ROZENDAAL)は、1980年にオランダのアムステルダムに生まれ、20歳頃に作成したウェブサイト作品達が注目を浴び、その後もインターネット(ウェブブラウザのアドオンやスマホのアプリ)を中心とした様々なアート作品を作成しています。
現在はニューヨークに在住し、世界的な国際展への出品や、インスタレーションアートなど、世界中で作品を発表し、各所で高い評価を得ています。
最近では、見る角度によって絵柄が変わったり立体的に見えたりする印刷方法「レンチキュラー」を利用した作品も精力的に生み出しており、日本国内でも作品が展示されるなど、徐々に話題となってきています。
芸術(アート)と呼ばれる作品の中でも代表的なものといえば「絵画」や「彫刻」ではないでしょうか。
これらは一般的に「数に限りがあり、選ばれし者が入手できて、それを鑑賞する権利を得る」というものであり、その「鑑賞する権利」に非常に強い価値を持ちます。
しかし、ラファエル・ローゼンダールが生み出すインターネットアートは”それ”と大きく異なります。
特に有名なウェブサイト作品には、作品ごとに異なるアドレス(ドメイン)が割り当てられており、購入者は彼から作品をドメインの所有権ごと購入するが、作品自体はウェブサイトなのでドメインを失効しない限り一般人にも永続的に公開され続けます。
これにより、作品の保有者と鑑賞者のヒエラルキーがフラットになると言う事が、非常に興味深い点と言えるでしょう。
ラファエル・ローゼンダール有名になったきっかけともえるのが、ウェブサイトそれ自体を作品として販売するという斬新な手法でした。
2015年に、ニューヨーク・タイムズスクエアにある巨大スクリーンで彼のウェブサイト「muchbetterthanthis.com」が展示されたことも記憶に新しいかと思います。
特に僕が好きな作品は以下の3つです。
以下のページよりラファエル・ローゼンダールのウェブサイト作品を見ることができますので、是非ご覧ください。
Google Chromeのプラグイン機能を利用した「Abstract Browsing」と呼ばれる2014年の作品があります。
これは、ウェブサイトのコンテンツが全て抽象的な色彩に置き換えられるというもので、いわば世界中のウェブ担当者が”アーティスト”となり、無数の絵画がインターネット上に誕生した瞬間と言えます。
また、このアドオンを通した画面を記録することで、インターネット上にあるウェブサイトの視覚的な構造の変化の歴史を追えるという面白さもあるでしょう。
ちなみに下の画像は、株式会社PLANのホームページをAbstract Browsingによって見た状態の画像。
さらにPLOGのトップページをAbstract Browsingによって見たのが下の画像です。
挑戦してみたい方は以下のリンクからどうぞ。
おそらく、ラファエル・ローゼンダールが最初に評価されたのは作品が持つ「思想」の面でしたが、最近ではそのデジタルな色使いも特徴と言えます。そんな彼の作品は、インターネットブラウザからさらに多くの人の手元に近いスマートフォンもターゲットとなっているようで、アプリケーションとしてダウンロードが可能です。
カメラアプリと連動して、目の前の景色をぼかすシンプルなアプリ。しかし、ただ単純にぼかすのではなく、ラファエル・ローゼンダール特有の、どこかデジタルな色彩や配色を伴ってぼかしがかかる不思議な画像になります。
ちなみに、下の画像は僕がこの記事を執筆しているときに見ている景色を「Blurrrrr」で撮影したものです。
カメラアプリと連動して、目の前の景色に着色し、画面をタップすると音がなるというアプリ。目の前の景色を楽器にするという試みでしょうか・・・これもまた面白いアート作品だと思います。
ちなみに、下の画像は僕がこの記事を執筆している時のデスクを写したスクリーンショットです。
このページで紹介した以外にも、ラファエル・ローゼンダールの作品には様々な物が存在します。まるで「アプリ開発の初心者が練習で作ったかのようなゲームアプリ」や、「英語俳句」なる言葉の芸術まで多岐に渡ります。
まず、ラファエル・ローゼンダールの作品の面白さとしては、ポップな配色による視覚的な面白さと、動きや思索的なアイデアを盛り込んだ視覚的な面白さが挙げられるでしょう。
そして、特にインターネットアートとして知られている作品群には「見たいときにいつでもアクセスできる」と言う点です。まるでAKBの「会いに行けるアイドル」 や、ももクロの「今会えるアイドル」といった現代的な需要を強く満たしている点も面白いと思います。
それはまるで、「芸術のあり方」を問うようであり、芸術という形や、芸術をみる場所や時間など、既存の「芸術を楽しむ」という概念を現代的なアプローチで試しているかのような面白さがあると感じます。
記事執筆時点の2018年4月は、青森県の十和田市現代美術館にてラファエル・ローゼンダールの世界初の個展となる「GENEROSITY 寛容さの美学」が開催中。5月20日までの開催となるので、気になる方は調べて行ってみてください。