今やスポーツ用品ブランドの絶対王者とも言える「ナイキ(NIKE)」。このブランドを象徴するキャッチコピー(企業スローガン)と言えば?みなさんご存知の「JUST DO IT.」ですよね。
1988年に誕生したこの「JUST DO IT.」という言葉、実はもともと強盗殺人で死刑宣告を受けたゲイリー・ギルモアが、死刑執行の際「最後に言い残すことはないか?」と聞かれて答えた言葉からインスピレーションを受けて生み出されたキャッチコピーなんです。
そんなナイキの代名詞である「JUST DO IT.」の意味や誕生秘話を探るとともに、過去にナイキが生み出した名キャッチコピーについてご紹介しましょう!
ナイキ(NIKE)を代表するキャッチコピーの1つと言えば「JUST DO IT.」ですよね?今では企業スローガン(タグライン)としても使われていますから、ナイキの代名詞と言って過言ではないコピーです。
「JUST DO IT.」を直訳すると
のような意味になるわけで、スポーツを愛するアスリートであれば、たったの1言ですが胸に突き刺さる名キャッチコピーだと思います。
「JUST DO IT.」のコンセプトサイトには、より多くの人に「JUST DO IT.」というキャッチコピーが持つフィーリングを伝えるための文章が書かれていましたので、そちらを少しご紹介しましょう。
毎日が、はじまりの日だ。
毎日が、あたらしいなにかに挑戦するための日だ。
手に入れた力を証明するための、すべてに出しきるための、理想に近づくための、チャンスだ。
プレイで自分を表現するための、そして、再びスタートするための、毎日が最高のチャンスだ。
JUST DO IT.
言葉としては結構キツイ言い方に取られる場合もありますが、その「やれよ」とか「言い訳するな」みたいなフィーリングを含んでいるところが、ナイキっぽさって感じもします。
アスリートにとっての「JUST DO IT.」は、臆病になるんじゃない!という意味や、今まで練習してきたことをやるだけだ!という意味も含まれていると思います。それがまた、共感を誘うのでしょう。
「JUST DO IT.」というキャッチコピーが誕生したのは1988年。
今でこそ、スポーツ用品の絶対王者という地位を築いたナイキですが、1980年代のスポーツ用品シーンと言えばリーボック(Reebok)が一強でした。
特に当時リリースした「フリースタイル」という名前のエアロビクス用スニーカーは、フィットネスブームのきっかけとなる程売れに売れ、1986年にリーボックはスポーツ用品ブランドとして全米ナンバーワンの売り上げを達成しています。
そんな、ライバルのリーボックに苦戦するナイキ。
打倒リーボックのために5つの広告(コマーシャル映像)を作ったのですが、全体を貫くような1つのテーマとして全てを纏めたキャッチコピーを作って欲しいと、コピーライターのダン・ワイデン(Dan Wieden)に依頼しました。
そこで生まれたのが、後に広告のキャッチコピーだけでなく、ナイキの企業スローガンにまで成長す「JUST DO IT.」というわけです。
さて、そんなナイキの象徴とも言えるクールでスタイリッシュな雰囲気の言葉「JUST DO IT.」ですが、実はこの言葉のインスピレーション源は、死刑囚が言った最後の言葉でした。
1988年、ナイキの良いキャッチコピーが思いつかず苦しんでいたコピーライターのダン・ワイデン。そこで1人の死刑囚「ゲイリー・ギルモア(Gary Gilmore)」という男性の事を思い出しました。
死刑囚であるギルモアについては後ほど詳しくご紹介しますが。この男は強盗殺人により有罪判決を受け死刑を言い渡されたのですが、当時は世界的な死刑廃止の流れがあり、ギルモアの死刑執行も停止されていたのです。
しかし、これ以上の刑務所生活を望まないとギルモアは弁護士を雇い「死刑にされる権利」を要求。家族や死刑廃止団体の説得も嘲笑し聞く耳を持たず、ギルモアは死刑にされる権利を勝ち取ります。
そして1977年1月17日、彼は以前から望んでいた銃殺刑を選択します。
執行官から「最後に言い残すことはあるか?」と聞かれ、ギルモアは「Let’s do it(さっさと始めようぜ)」と答え、死刑が執行されました。
ただし、ダン・ワイデンは「Let’s」という言葉があまり好きではなかったようで、それを「Just」に書き換えて、かの有名な「JUST DO IT.」という言葉が誕生するわけです。
しかし、ナイキの創設者であるフィル・ナイト(Phil Knight)は、このキャッチコピーをあまり気に入らなかったようで、変更して欲しいと言ったそうですが、ダン・ワイデンが「信用してくれ!絶対に上手くいく!」と説き伏せたことで、広告に使用されました。
結果、いち広告のキャッチコピーではなく、ナイキを象徴する企業スローガンにまで成長したというストーリーがあります。
アメリカを代表するクリエイティブ・ エージェンシー(要するに広告代理店)のワイデン・ケネディ(W+K)創始者の1人で、古くからナイキの広告に携わるダン・ワイデン(Dan Wieden)。
ナイキの創始者との初めての会話は「フィル・ナイトと申しますが、私は広告というものを信じない主義なので」だったなんて逸話も有名です。
そんなダン・ワイデンが「JUST DO IT.」について語った動画がありますので、弊社の英ペラ代表アキラに訳してもらいました。それを僕が文字に起こしたので、結構意訳しています。
サクラメントの底力見せてやりますよ! |
【以下動画内容の翻訳】
「JUST DO IT.」って言うタグライン(キャッチコピー)がどうやって出来たのかという話なんだけど、その誕生秘話には1つ大きな点があるので、それを紹介します。
当時ナイキにはたくさんの広告が6〜8固程度あって、それが最初にナイキが大々的に打った広告で、2500万ドル(約2億7500万円)くらいの大金を使った広告でした。
この複数の広告は、それぞれのスポーツをしていたクリエイティブに携わる社員たちが作ったけれども、そのどれもが「古典的」な広告で、ピンときていなかった事を覚えています。
ナイキのあるプレゼンテーションが行われた前夜、これらの広告を作ったスタッフ達がバラバラだったのを一つに纏め上げて、ウォーキングを始めたかりの女性から、ワールドクラスのアスリートまで共感できるようなコピーを考えました。
確か、20分くらいで4〜5個程度のキャッチコピーを書きました。
その後、ひょんなことから、当時ニュースを騒がせていた死刑囚のゲイリー・ギルモアの弟で、ローリングストーン紙のライターをしていたマイケル・ギルモア(Michael Gilmore)と会って彼の記事(本?)を読み、そこでインスピレーションを受けました。
古典的な死刑の風景だと思うのですが、死刑囚のゲイリー・ギルモアは死刑執行のとき執行官に銃口を頭に当てられながら「最後に言いたいことは」と聞かれるわけです。そこで彼は「Let’s do it(さっさとやろう)」と言うわけです。
今でも覚えていますが、その記事を読んだ時本当に凄いことだと思いました。それがなぜかと言うと、よくもそんな状況で自分を推し進めることが出来るなという事です。
ただ、私自身が「Let’s」という言葉が嫌いなので、それを変えました。このまま使っていたら、彼にクレジットを渡さなければいけないけど、それをする必要も無いしね。
「Let’s do it」という言葉を発した人物、ゲイリー・マーク・ギルモア(Gary Mark Gilmore)。
1940年にテキサス州のウェーコに四人兄弟の次男として誕生。10歳の頃から盗みなどの犯罪で繰り返し逮捕され、1965年に強盗罪で有罪判決を受けて11年の刑期を終えた1976年に出所。
その後ユタ州のオレゴンに移り住みます。
1976年の7月19日、ゲイリーが36歳の頃、日々の鬱憤が溜まって町をトライブしていた時、衝動的にガソリンスタンドを襲撃し強盗、その後店員を射殺。翌日はモーテルを襲撃し管理人を射殺。この時の目撃者によりゲイリーは逮捕されました。
同年10月の裁判で有罪判決、死刑が宣告されます。ユタ州の死刑制度では、死刑囚が執行方式を「銃殺刑」か「絞首刑」のどちらかを選択することが出来るため、ゲイリーは銃殺刑を選択しました。
しかし、1967年頃からアメリカは死刑制度再検討の風潮があり、世界的な死刑廃止の流れもあって死刑執行が停止されており、ゲイリーが死刑宣告を受けた時代は、アメリカにおいても死刑廃止が現実味を帯び始めた頃でした。
ところが、ゲイリーはこれ以上刑務所生活を望まないとし、弁護士を雇って「死刑にされる権利」を州知事に要求するも叶わず、睡眠薬を飲んで自殺を図るが失敗。この頃には世界中のマスコミから注目を集め、ワシントンD.C.で開かれた死刑制度に関する連邦議会の公聴人にも証人として出席しました。
家族や死刑廃止団体が最後までゲイリーを説得するも、ゲイリーは聞く耳を持たず「死刑にされる権利」を勝ち取りました。執行前にはハンガーストライキを行い、1977年1月17日にゲイリーの希望通り複数の銃撃者により処刑されました。
その後、死刑の廃止の潮流にあったアメリカの流れを変えるきっかけになり、アメリカでは死刑が再開。
彼の弟であるマイケル・ギルモアが執筆した、ゲイリーを描いたノンフィクション作品『心臓を貫かれて』(原題:Shot in the Heart)』。日本版は村上春樹が翻訳を担当したことでも話題になりました。
また、マイケル・ギルモアを含むギルモア4兄弟は全員「一族の血を後世に残さない」として子供を作りませんでした。
現在の価格はコチラ |
ナイキが生み出した優秀なキャッチコピーは「JUST DO IT.」だけではありません。
日本でも渋谷や原宿といった街を歩けば、思わず足を止めてしまうような広告がたくさんありますよね!特にナイキの広告はメッセージ性が強く、スポーツを愛するものならば立ち止まってジワっと涙が込み上げてくるくらい胸に刺さるものがあったりします。
そんな、ナイキの名キャッチコピーから、特に僕が好きなものを「日本語版」と「英語版」に分けてご紹介。日本語版のキャッチコピーは街で見かけたことがあるかもしれませんね!
どれもいいコピーですね。1番を決めろと言われたら、個人的には「その時、いのりは熱狂に変わる。」でしょうか。
「君が練習しない日はアイツが上手くなる日だ。」というコピーもすごく良いのですが、それを含んで「その時、いのりは熱狂に変わる。」になると思いますから、この一言が全てを物語っていると思います。
多くの観客の祈りが熱狂に変わる瞬間、それを熱狂に変える自分、また熱狂に変えてくれた人物に対する畏敬の念、その全てが含まれていて、個人的にはとても素敵なキャッチコピーであり、胸を打たれるキャッチコピーだと思います。
どれも確信をついててカッコいいですね。ラップならどれもがパンチライン!ライバルより強くなるためにスポーツに打ち込む全ての人間を鼓舞する熱いキャッチコピーの連続です。
「Yesterday, you said tomorrow.」これを日本人的にいうなら「明日やろうは馬鹿野郎」でしょうか。
余談ですが、ナイキのエア系スニーカーのキャッチコピーも好きなものが多いです。
九十年代生まれのエアマックス。
KISS MY AIRSは「kiss my ass(ケツにキスしろ)」のパロディで「AIRにキスしろ」という素敵な言葉に早変わり。
RUN ON AIRは「僕たちはAIRの上を走っている」と、エアマックスのエアユニットファンがゾクゾクするようなキャッチコピーだと思います。本当に素敵。
そして最後は、エアハラチの広告に使われた「HAVE YOU HUGGED YOUR TODAY(今日は自分の足をハグした?))」というキャッチコピー。足を包み込むような構造のハラチシステムを上手く表現できています。
どれも秀逸なものばかりですね!